経営関連
2024.01.15
No.24-003 / 2024年1月15日
株式会社どんどんライス 社長インタビュー
― 食のインフラ・ライフラインへの自覚と誇り ―
株式会社どんどんライス(本社:福岡県筑後市長浜729-1、取締役社長:浦本泰治)は、主に九州を販路とする米飯・加工米穀の製造販売会社として、飲食店や弁当店をはじめ数多くの顧客に炊飯米を提供している。このたび同社熊本工場(熊本県熊本市南区会富町33-1)を訪れ、炊飯事業の経緯や現況、今後の取組みについて取材した。
【どんどんライスの経緯】
1987年、株式会社どんどんライスの前身である株式会社南九州炊飯センターが、株式会社ヒライ(本社:熊本県熊本市西区春日7-26-70、代表取締役社長:平井浩一郎)のグループ会社(子会社)として設立された。ヒライは「おべんとうのヒライ」としてその名が広く知られており、弁当・惣菜・サンドイッチ・おにぎり・寿司の製造及び直売を事業としている。南九州炊飯センターはその炊飯部門としての役目を担ってきた。その後、1994年に九州炊飯センターに社名変更し、さらに1999年、現社名に再変更した。
「南九州炊飯センター設立前は自社の弁当製造が主であったが、女性の社会進出などで、いずれ中・外食が増えてご飯を"買う"時代が到来し、さまざまな顧客に販売できるだろうと、ヒライ創業者の故平井龍三郎が考えた」と語るのは、どんどんライス取締役社長(COO・最高執行責任者)の浦本泰治氏(以下「浦本社長」)である。その言葉通り、1980年代の末ごろから消費者がコンビニやスーパーで弁当などを買う中食が大幅に増え始めたが、まさに需要の到来を見越した賢明な判断だったと言えよう。
現在は、ご飯ものとして酢飯や白飯・赤飯・炊き込みご飯、和菓子ではおはぎやいきなり団子、加工品としておにぎりやいなり・助六パックなど約400アイテムを製造している。これらはヒライ店舗用のほか、スーパーや飲食店・惣菜店・鮮魚店・ホテル・PA・学校など、600か所を超える広範な取引先に提供され、どんどんライスは「ご飯のプロフェッショナル」としての地位を確立している。社名(どんどんライス)の由来は、「親しみやすさ」や「どんどんご飯の注文がくるように」という思いから命名されたものであるが、「どんどんご飯を食べてほしい」「どんどんご飯を提供したい」「どんどん会社を成長させたい」という願いも込められている。
【ご飯のプロとしての自覚と誇り】
どんどんライスは、「食を通じて世の人々に幸せと健康をもたらすこと」を使命とし、「食のインフラ、食のライフラインになるための自覚と誇りを持たなければならない」としている。そのため、「おいしさ」「品質管理」「地域貢献」の3つを顧客・地域社会への約束として掲げており、ご飯のプロフェッショナルとしての責任と自負につながっている。「おいしさ」は、妥協を許さないおいしさを目指し、製造現場の機械化・自動化を図りながらも、人が食べるものゆえに人の手・人の目を通しておいしさを追求する姿勢を貫いている。すべての工程で目を配り、味を決め、手づくりで盛り付けや成形をすることで、おいしさを守り進化させている。「品質管理」においては、原料素材の厳選や工場入荷時の検査、製造工程の管理、製品の衛生管理を徹底し、併せて公益社団法人日本炊飯協会のHACCP基準に基づいたHACCP認定工場として食の安全確保を実践している。「地域貢献」では、熊本県産米のご飯を県内の学校給食や高齢者施設へ提供している。また、2016年に発生した熊本地震では、ライフラインが途絶えたエリアの店舗に食と日用品を供給し続け、被災地域の食と生活を支えるなど、地域に根付いた企業活動を実践している。
【加圧IH炊飯ラインの導入】
どんどんライスは、熊本県と福岡県にそれぞれ炊飯工場を有しているが、今回取材した熊本工場は、2020年12月に株式会社サタケ(本社:広島県東広島市西条西本町2-30、代表取締役社長:松本和久)の加圧式IH炊飯ライン(120釜ライン)を導入した。それまでのガス連続炊飯ラインの老朽化による更新であったが、ガス炊飯から加圧式IH炊飯へスムーズに転換したわけではなかった。実は福岡工場では当初からIH炊飯ラインを採用しているのだが、「熊本工場のガス炊飯の方がおいしかった」と浦本社長は苦笑いする。家庭用では圧倒的に電気炊飯器が多く、その中でもIH炊飯器のシェアが高いが、業務用では現在でもガス炊飯機が主流である。当初、熊本工場がガス炊飯機への更新を検討したのも当然の帰結であった。
ところがその後、180度の方針転換が図られたのであるが、サタケがどんどんライスに加圧式IH炊飯機のプレゼンテーションをしたことが端緒となった。実際に熊本工場に実機を持ち込み炊飯したところ、粒感やもっちり感があり、品質面でガス炊飯に勝るという評価を得た。ご飯が経時劣化に強いという点についても、「冷めた時の食味はガス炊飯と明らかな違いがあり、炊きムラやコゲも少ない」という浦本社長の言葉がそれを裏付けている。弁当店などでは冷めたお弁当やおにぎりを提供することが多く、食味が良いご飯は強いセールスポイントとなる。また、浦本社長は「温度・時間・重量などのデータが集約できることで、人手で行っていた品質管理がPC管理できるようになった」と、加圧式IH炊飯機導入による品質管理面での効果を実感している。さらに、サタケの加圧式IH炊飯機の特長である排熱が少ない点について、「ガス炊飯だと工場内が40℃を超えることもあるが、IH炊飯だと快適な環境を保てる」と品質面以外の利点にも注目している。昨今、労働条件や労働環境の改善が声高に叫ばれており、その点からも高評価を得ているわけだ。加えて、加圧式IH炊飯機はガス(液化石油ガス)を使用しないので二酸化炭素の排出量を低減できるメリットがある。昨今、脱炭素やSDGsなど持続可能な社会の構築が世界的な課題となっており、排出量低減は企業の環境問題への取り組みにつながっている。
加圧式IH炊飯機の特長は生産性やコスト面にも寄与している。通常、ガス炊飯ラインは連続炊飯式であり、単一アイテムの大量生産には適している。しかし、昨今では消費者の嗜好の多様化やライフスタイルの変化に伴い、生産アイテム数の増加を余儀なくされている。加圧式IH炊飯機は「一釜炊飯方式」であり、一釜ごとにアイテムを変えることができるため多品種少量生産が可能となり、生産性の向上を図ることができる。「歩留まりが5%向上したし、清掃がしやすい」(浦本社長)ということも嬉しい誤算であったようだ。また「ガスに比べ1/3のスペースが削減できた。加圧式IHは炊飯ラインのコンパクト化が可能だ」と浦本社長は省スペースの点にも言及した。サタケ独自のバケット浸漬装置により、一般的に採用されている釜での浸漬を行わないことなどが功を奏しているのだ。
ガス炊飯機という、安定的で常識的な選択肢を捨て加圧式IH炊飯機を採用したことは一種の冒険であったかもしれない。だが、浦本社長は「品質的にも良いし、作業環境も改善した。身近(熊本市内)にサービス拠点がありメンテナンスも早い。お客様サポートセンターによる24時間サービス対応も心強い」と現在の心境を語る。設備導入当初、炊飯ラインの機能に一部不具合があったが、サービスマンの対応により改善が図られ、現在では安定した稼働状態を維持している。トラブルを未然に防ぐメンテナンスと発生時の素早い対応力が、消費者の日常生活に直結している炊飯工場には必要不可欠なのである。
【これからの取組み】
どんどんライスの今後の取り組みについて浦本社長は、「もっとご飯を利用したものを開発し広げたい。九州だけにとどまらず県外にも商圏を拡大したい」と意気込む。コロナ禍を機に始めた冷凍米飯加工品や冷凍和菓子の販売強化も施策の一つで、九州圏外に新工場を建設するという将来構想もあるようだ。他方、今後の懸念として人材・労働力不足を挙げており、「特に繁忙期での安定稼働に影響を与えるかもしれない」と浦本社長は将来を危惧している。人手不足は同社に限ったことではなく、わが国の深刻な社会問題として企業にも大きくのしかかっている。「これからはロボットなどによる無人化・省人化を図らなければならないだろう」(浦本社長)。その真剣な眼差しからは、広く社会に食を提供している企業のトップとしての責任と決意を読み取ることができる。
最後に、これからのご飯に対する思いを聞いた。「わが国では少子高齢化や食の多様化が進み、ますます胃袋(需要)が小さくなるだろう。だが、栄養価の高いご飯を食べてもらいたいし、その需要を喚起するための努力や支援は惜しまない。何よりも『ご飯はいいものだ』ということを分かってほしい」と浦本社長は力を込めた。
時代と共に社会環境や価値観がいかに変化しようとも、「食」がなくなることはあり得ない。だが、傍観するだけでは進歩は望めない。人の食に対する欲求や願望に真剣に向き合い、創意工夫と努力を重ね、多くの消費者や企業・店舗などから支持される株式会社どんどんライス。そこには、ご飯に対する真摯な思いと、おいしいものを食べてほしいという純粋な願いが込められていると感じた取材であった。
【どんどんライスの概要】
社 名 : 株式会社どんどんライス
本 社 : 福岡県筑後市長浜729-1
設 立 : 1987年6月
社 長 : 取締役社長(COO・最高執行責任者) 浦本泰治
事 業 : 米飯製品、惣菜、和菓子の製造販売
以上