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2013.09.12
2013年9月12日
ユーザー紹介
静岡県経済農業協同組合連合会(静岡県静岡市駿河区曲金3丁目8番1号、代表理事理事長 阿部 勝氏、以下「JA静岡経済連」)は、先ごろパールライス袋井工場(静岡県袋井市堀越1359番地の4、工場長 川合智之氏)の設備更新工事を行った。最新機の導入や精米ラインの増設によって、米の品質や作業効率が向上した。この更新工事の経緯や現在の様子を現地取材した。
【静岡県の穀倉地帯】
パールライス袋井工場(以下「袋井工場」)は、中遠地域と呼ばれる静岡県西部の袋井市にある。この地域は、全国的に見ても日照時間が長く比較的温暖な気候であるが、冬には「遠州のからっ風」と呼ばれる強い北西の季節風が吹くため、気温以上に寒く感じられる。農業生産では水田が比較的多く、静岡県内最大の穀倉地帯であるほか、特にマスクメロンが有名な地域で、お茶やイチゴなどの園芸も盛んな、県内でも主要な農業地帯である。米はコシヒカリが最も多く、次いでキタヒカリやヒノヒカリが続く。また、この地域では「やらまいか精神」という、「(失敗を恐れず)やってみよう」というチャレンジ精神があり、浜松市ではホンダ、ヤマハ、スズキなど名だたる企業を生み出している。
【袋井工場の新設から老朽化への対応】
1992年4月、袋井工場が東名高速道路の袋井インターチェンジに程近い袋井市堀越に建設された。当時、JA静岡経済連には袋井工場を含め県内に4つの精米工場があったが、その後集約化を進め、袋井工場に一本化された。袋井工場には150馬力の精米ラインが設置され、大量の精米を一手に引き受けていたが、2008年に設備の老朽化対応も含め、今後の精米工場のあり方(理想像)について検討を開始した。当時の状況について、JA静岡経済連食糧部精米加工課の名倉久史課長は、「米を取り巻く状況も厳しく、長期的にどうするべきか大いに悩んだ」と語る。現状と将来の環境変化を考慮したうえで、精米工場の理想像を構築するのは簡単なことではない。そこで1つの方策として、サタケ(広島県東広島市西条西本町2?30、代表 佐竹利子)に工場診断を依頼。サタケは診断結果(問題点)とその対応策を提案した。これらの結果を踏まえ、2011年9月に「精米工場のあり方を考えるプロジェクト」を立ち上げた。
【進むべき道を模索】
プロジェクトは、これから進むべき道を決定するため、結論ありきではなくゼロベースで検討を行った。名倉課長は、「TPP問題もあり今後の展開が予断を許さない中、工場の全面刷新、一部改修も含め維持していくのか、あるいは他の系統卸にすべて精米委託するのかという線まで検討した」と当時を回顧する。結論として、JA静岡経済連は今では少数派となった経済連組織として独立しており、単位農協が精米施設を保有していない現況では、唯一の精米工場である袋井工場を存続させるべきであると判断した。ただし、将来の社会、経済情勢など諸環境の変化を鑑み、精米品質と効率化の向上を目指した最小限の設備更新を行うこととし、2012年11月にJA静岡経済連の最高経営意思決定機関である経営管理委員会において承認された。
【更新工事へ】
設備更新の条件として精米品質の向上のほか、1)2ラインであること、2)限られたスペースを有効利用すること、3)従来機より残留排出時間が短いこと、4)作業の効率化が図れること、5)次へのステップに悪影響を及ぼさないこと(2008年に構想した理想像は生きている)などを挙げた。2012年12月、数社の中から設備更新の施工業者としてサタケを決定した。サタケの基本的な提案は、新開発の竪型精米機と精米選別ユニットであったが、採用の決め手になった点について名倉課長は、「サタケはFA(生産工程の自動化)の機能があること、さらに2ライン構成の要望に対し、他社は2階建て方式を提案したが、サタケは5トン精米機と2.5トンの精米選別ユニットが並列設置できる点を評価した」と語る。2013年1月23日に起工式が挙行され、2月1日更新工事が始まった。その後、完成検査、試運転・調整を経て本稼働を開始。機械設備は順調に稼働し、5月31日に竣工式が執り行われた。
【精米品質と作業効率の向上】
今回の設備更新の内容は大きく分けて3つある。1つは精米本機の更新である。従来は「ニューコンパス精米機 NCP?A」(150馬力、9トン/時)の1ラインであったが(小型精米設備を除く)、更新後は2ラインとし、その1ラインにサタケが開発したばかりの竪型精米機「バーチミル VTC050A」(5トン/時)を設置。光選別機「ピカ選GRAND ES?02AMS」(6.2トン/時間)も併設した。2つ目は精米ラインの増設である。前述の2ラインのうちの1つであるが、これにも新開発の精米選別ユニット「ソフィア RMU025A」を導入。これは全国初となる第1号機であった。「ソフィア」は、竪型精米機「バーチミル VTC025A」(2.5トン/時)に、新開発の粒選別機「クアッドセパレーター HRD025A」1台と光選別機「ピカ選GRAND ES?02CMS」2台がセットされたユニットである。3つ目が包装出荷設備の更新である。包装能力が5kg袋で16袋/分の自動包装機1台とロボットパレタイザー1台を新たに導入した。
更新後の稼働状況や変化について名倉課長は、「老朽化していた従来の精米機は、1番機で搗精ムラがあり、さらに2番機でやや過搗精気味になっていた。そのため、炊飯後のご飯が柔らかく食感に問題があった。バーチミルで精米品質が向上し、粒感がある食味の良いしっかりとしたご飯になったことで、取引先からの評価も高まった」という。さらに、精米加工課が運営に当たっている袋井工場の川合智之工場長も、「明らかにバーチミルの方が優れている。精米品質もさることながら、歩留りも向上した。これはピカ選GRANDの選別能力(良品の巻き添えが少ない)が高いことも寄与している」と設備更新で生じたメリットを語る。
設備更新の効果はそれだけではない。作業効率の向上にも寄与した。従来の150馬力の精米ラインでは残留米排出に約8分を要したが、バーチミルでは約1分と短く、1日15ロット切替えを想定すると2時間近い差となる。また、少量多品種の生産においては別途小型精米設備で精米していたが、精米能力が1トン/時であり、加えて単独ラインのため専用の張り込み、計量包装が必要で作業効率悪かった。今回の2ライン化では、2.5トン/時のバーチミルで精米すると共に、張り込み、計量包装が同一系統となり、効率的な精米が可能になった。この結果は実際の作業時間に如実に表れている。「従来は2交代制で22時頃まで稼働していることが多かったが、現在は廃止し19時くらいには終わる」(名倉課長)そうだ。まさに精米品質と作業効率の向上という二兎を得たといえるであろう。
【基本理念と理想への努力】
JA静岡経済連は袋井工場の「安全・安心への取組み」を明文化しており、1)設備に関する取組み、2)品質に関する取組み、3)衛生管理に関する取組みの3項目に分けている。例えば設備関係では、「機械・昇降機などに残留排出装置を設置して異品種の混入を防ぐ」「製造ラインには金属を除去する機械を設置し、包装ラインにも金属探知器を設置する」などがあり、品質関係では、「すべての玄米と精米をサンプリングして、品質と食味検査を実施したあと、3か月間保管」「重要な作業は必ず2名で作業内容を確認する」などが決められている。また、衛生管理関係でも「従業員はサニタリールームで毛髪除去や手洗い等を行った後、精米室や包装室へ入室」など安全・安心への真摯な取組みが行われている。今回の設備更新で、さらにその取組みを強化したと言える。
今回の設備更新によって一定の成果が認められた。しかしゴールではない。2008年に検討した理想の精米工場に近づけるため、これからも地道な努力と研鑽を続けていくであろう。何となれば、JA静岡経済連の基本理念・指針の中に行動指針が示されている。そこには「1.私たち一人ひとりは、高い倫理意識をち、法令を遵守し、会員・地域の人々の信頼を第一に行動します」「2.私たち一人ひとりは、自己研鑽に努め、組織の一員として協同により生み出される価値を大切にします」「3.私たち一人ひとりは、常に役割任務に責任を持って業務を遂行します」という3つの指針が示されている。だからこそ、常に理想に近づける努力を続けることは、JA静岡経済連の理念・指針と合致し、ひいては静岡県民への貢献につながるのだ。特に静岡県は、一人あたりの米の消費量が全国でもトップクラスであり、米をこよなく愛している県民性がうかがえる。それゆえJA静岡経済連の存在価値は大きく、大変重要な役割を担っている。取材を通し、「やらまいか精神」を肌で感じ取ることができた。それこそがJA静岡経済連の矜持と責任感の強さの源ではないだろうか。
了
1.施 主 静岡県経済農業協同組合連合会(JA静岡経済連)
代表理事理事長 阿部 勝
2.工 事 名 JA静岡経済連パールライス袋井工場精米設備更新工事
3.工事期間 2013年2月1日?5月14日
4.所 在 地 袋井市堀越1359番地の4
5.管 理 者 JA静岡経済連一級建築士事務所
6.施工業者 株式会社サタケ
7.工事内容
(1)精米本機 更新
竪型精米機1台(バーチミル) 搗精能力5トン/時
光選別機1台(ピカ選GRAND) 選別能力6.2トン/時
(2)精米ライン増設(ソフィア)
竪型精米機1台(バーチミル) 搗精能力2.5トン/時
粒選別機1台(クアッドセパレーター) 2.5トン/時
光選別機2台(ピカ選GRAND) 2.9トン/時
(3)包装出荷設備更新
自動包装機1台 包装能力5kg袋 16袋/分
ロボットパレタイザー1台
以上
(本件へのお問い合わせ: TEL 082-420-8501 広報室)
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