製品・技術
2012.08.22
2012年8月22日
ユーザー紹介
JAおちいまばり(愛媛県今治市北宝来町1-1-5)の直売所「さいさいきて屋」(愛媛県今治市中寺279-1)では、7月初旬より、サタケ(東広島市西条西本町2-30、代表:佐竹利子)が開発した、柑橘類等対象の残留農薬測定装置を店舗内に設置し、農作物の抜き取り検査を行っている。全国の直売所に先駆けて特徴的な取り組みを行い、食の安全・安心を追求する「さいさいきて屋」を取材した。
JAおちいまばり「さいさいきて屋」 |
瀬戸内海と四国山地に囲まれた愛媛県は、温暖な気候に恵まれ、豊富な農産物や海産物、畜産物が育つ。中でもみかんの生産量が多く、他県では流通しないような、様々な品種が栽培されている。JAおちいまばりは、愛媛県の東予地方に位置し、四国の玄関口として造船やタオルで有名な今治市(立花地区を除く)及び越智郡上島町を事業エリアとする農業協同組合。1997年、14農協が合併して誕生した。うち、8つの農協は本州と四国を結ぶ「しまなみ海道」が通る島しょ部、6つの農協は山間部にある。年平均気温15―16度、平均降雨量1,100㎜程度で、島しょ部と陸地の山間部では柑橘類が栽培され、陸地部の平坦地では米麦や施設園芸作物等の栽培が中心となっている。
にぎわう店内のようす |
JAおちいまばり内には、全国で最大規模の直売所「さいさいきて屋」がある。農産物だけでなく、肉や魚、花きや搗きたて米、オリジナル商品等を販売。冬には、陳列棚の3分の1を柑橘類が占める。直売所の横には食堂、カフェ、花屋、クッキングスタジオなどを併設。年間約200万人が訪れ、22億4千万円を売り上げる、人気の直売所である。その前身となる直売所を作り、事業を立ち上げた、JAおちいまばり 直販開発室の西坂文秀室長は、「農家の人たちに、農業の『農』だけでなく、『業』の楽しみも味わって欲しかった」と語る。
JAおちいまばり直販開発室の西坂文秀室長 |
2001年、営農販売部に勤務していた西坂室長は、危機感を抱えていた。「この20年間で専業農家が減り、兼業農家が増えた。女性高齢者の多い兼業農家が農業を続けるためには、卸先ではなく、販売先が必要だ」。思い立ったらまず行動の性格。JAに「3年で1億円の売上を出す」と宣言し、1500万円を借り、豚のセリ市場跡地を自ら整地し、簡素な直売所を立ち上げた。想定を大きく上回り、初年度に2億1000万円の売り上げを記録した。1500万円の資金を使い、直売所で早くから導入したのは、販売管理(POS)システム。直売所のレジから15分おきに生産者へ販状況をメールで送信。農家自ら在庫管理を行い、午後から商品を追加しに来ることもできるようになった。「生産者の顔の見える農作物」という言葉をよく聞くが、その逆の「農家から客の顔が見えるシステム」を作り上げたのである。これまでは、価格決定の権限を持っていなかった農家が自分で商品を管理するようになると、変化が訪れた。直売所で売れる商品作りのために、農業へ投資するようになったのである。売り上げが伸びるほど、商品販売を希望する生産者も増え、30坪の土地、3人の従業員で始まった事業は、今や約500坪、140人の従業員を抱えるまでに成長した。「兼業農家でも、稼ぎ方さえ知っていれば儲けることができる。農業の『業』の楽しさを知り、やりがい・生きがいを感じると、人生に張り合いも出てくる」と西坂室長は語る。
このような取り組みが評価され、2012年には全国農業協同組合中央会とNHK主催の「日本農業賞」の特別部門、「食の架け橋賞」の大賞を「さいさいきて屋 直売所運営協議会」が受賞した。
サイサイエンスラボ |
さらなる消費者、生産者、相互の幸福のため、残留農薬測定装置の導入に踏み切った。直売所横に残留農薬分析室を設置。測定のようすを見ることのできるよう、大きな窓を設けた。名前は、「サイサイエンスラボ」。このような形態は全国でも例を見ない。目につく場所で事業を進めることで、生産者・消費者双方へ訴えたい考えだ。
残留農薬測定にこだわったのは、安全・安心の追求のため。これまでは、農家が作物を持ってきた際、農薬使用履歴の記帳制度をとっていた。しかし、記帳は農家の「自己申告」でしかなく、真実を見極めることはできない。昨今、食品偽装が相次ぎ、食品のトレサビリティの問題が取り立たされている。真の安全・安心を消費者に届けるため、そして農家が安心して生産に励めるよう、一種の「牽制」としても残留農薬測定装置は効果を発揮する。「やむを得ず農薬を多く使ってしまう年もある。しかし、品質管理までは農家にはできない。農家ができないことは、直売所がその役割を担い、分析結果を農家にフィードバックする。ただし、農薬が検出された場合は、その農産物を全て引き取ってもらう」と、そこにはルールがあることを西坂室長は強調する。その結果を踏まえた農家はさらに真剣に農業に取り組むという訳だ。
分析検査員と残留農薬測定装置 |
サタケの残留農薬測定装置を導入した理由を聞くと、「柑橘類を分析できる装置であること。大がかりな装置ではなく、コンパクトで操作性も良いものが良かった。能力や性能がちょうどフィットした」とのこと。それまで、サタケでは柑橘類対象の装置を販売した例はなかったが、依頼を受け、3ヵ月ほどで対応するよう改良した。操作性を活かし、分析検査員には20代―30代の若手職員を配属。「サイサイエンスラボ」は仕事の様子が外から見える職場。検査員も気合が入。柑橘類だけでなく、野菜やフルーツでも測定を進める。特に4月から始めた、野菜やフルーツ等をパウダー化し、活用する事業では、作物を乾燥し粉にするため、残留農薬がより濃縮されてしまう恐れがある。隅々まで徹底的に目を光らす。
試験農場「さいさい農園」 |
この他、農業普及の取り組みとして、「さいさいきて屋」横に、試験農場や学童水田がある。試験農場では、定期的に農家講習会を行う。農家の基礎を学び、中高年や退職後の人たちに専業農家になってもらうことがねらい。「年金の足し、小遣い稼ぎでも構わないから、農業に興味を持って、1分1秒でも長く農業を続けてもらいたい」という思いが込められている。
また、仕入れ先は1300人ほどの農家。島しょ部も管内とするため、島での集荷にはしまなみ海道の通行料金や高齢化の問題がネックとなる。そこで、トラック2台を購入し、一番遠い島の住人をパートとして採用。通勤しながら、集荷業務を行う。売り上げ好調で不足する販売品を集荷業務でカバーできればとの考えもある。
今後は、地元今治タオルの原料となる綿花生産事業や、アパレルメーカーとの共同ブランド構築にも取り組む。直売所という枠を超えて多種多様な取り組みを行う原動力は一体何なのだろうか。西坂室長に尋ねると、「一つ新しいことを始めると、それをきっかけに様々なアイデアが浮かぶ。生産者や消費者の要望を取り込み、事業を進めながら、それらを一つ一つ実現させてきたら、この規模になった」と語る。目指すは「食のテーマパーク」。新鮮・安全・安心、地産地消の徹底をコンセプトに、さらなる展開を図る西坂室長に、日本農業の明るい未来を見た。
(了)
(本件へのお問い合わせ: TEL 082-420-8501 広報室)
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