製品・技術
2012.04.18
2012年4月18日
話 題
サタケ(本社:広島県東広島市西条西本町2-30、代表:佐竹利子)が開発したモータを搭載したブレーキ用コンプレッサが、東北新幹線のE5系電車「はやぶさ」「はやて」「やまびこ」および「なすの」に採用されています。サタケのモータ開発の歩みと新幹線採用の経緯を紹介します。
東北新幹線 E5系電車「はやぶさ」 |
E5系電車「はやぶさ」「はやて」「やまびこ」および「なすの」に採用されたブレーキ用コンプレッサは、国内のブレーキシステムメーカーN社からJR東日本に納入されています。このコンプレッサに搭載されるモータとして、サタケの単相交流12kWモータが採用されています。
これまでサタケのモータは、JRや私鉄のほか、中国や台湾など海外でも採用されており、信頼性や技術力の高さが評価されてきました。このような実績や様々な要望への対応力が新幹線への採用につながったものと考えています。また電車用だけでなく、高層ビル、ショッピングセンター、ホテル、病院、学校などの消火ポンプ、排煙ファンにも数多く採用されており、この分野でも高い評価を頂いています。このように電車と建築物という限定された市場ですが、サタケのモータが活躍しています。
現在は前述のように数多く採用されているサタケのモータですが、その開発のスタートは20年以上も前に遡ります。開発は逆風と困難の連続であり、決して順風満帆と言えるものではありませんでした。一時はモータ事業からの撤退を余儀なくされた時期もありましたが、地道な努力と挑戦を続け現在につながりました。
【モータ開発の歩み】
サタケのモータ開発は1985年(昭和60年)ごろに遡る。穀物加工機械の開発、販売が主力事業であるサタケがモータの開発に取り組んだのは、佐竹利彦社長(当時)のトップダウンによるものだった。当時、アジアを中心とした海外でのプラント建設(精米工場など)を順調に受注しており、プラントには数多くのモータが使用されたのだが、何台も運転すると発電機が止まるという問題が発生していた。インバータを使えば解決するのだが、当時はノイズなどの不具合が発生して機械に影響が出るおそれがあった。そこで、自社でモータを開発せよとの利彦の号令が掛かったのである。利彦の開発指示は問題解決ということが第一義的であったが、それとともに、父である初代社長佐竹利市が日本で最初の動力精米機を発明した時、併せてエンジン(石油発動機)を開発したことが伏線となっている。すなわち、父のエンジン(発動機)を開発したという偉業に対し、利彦はモータ(電動機)で成し遂げたいという思いがあったのだ。また、原動機の開発は、長きにわたる「精米のサタケ」とう代名詞に支えられてきた、精米加工という技術的基盤と無縁ではない。
熊本一夫 取締役統括部長 |
モータの開発がスタートし最初に取り組んだのが、インバータ不要で周波数制御が自由に行えるモータであった。インバータがないのでノイズの問題が解消されるのだ。しかしこのモータは途中で開発を断念した。熱の問題など解決が非常に困難な技術的課題が立ちはだかったからである。当時開発チームに在籍し、現在サタケのモータ販売事業を行っている佐竹電機株式会社(本社:広島県東広島市西条西本町2-30、代表取締役:佐竹利子)の熊本一夫取締役統括部長は次のように語る。「インバータ不要なモータは成功すれば画期的なものになることは分かっていたが、技術的・コスト的に簡単に乗り越えられるものではなかった。様々な解決策を講じたが、結果的に断念せざるを得なかった」。 何とか世に出したい、成功させたいという強い思いは開発陣にあったが、方針転換を余儀なくされた。しかし、その後も地道な研究を重ね、「双固定子誘導電動機」(※1)や汎用モータを開発し、一定の成果を得た。モータの名称も「SIM(SATAKE Induction Motor)」と名づけ、希望の光が見えたかに思えた。
しかし、またしても壁に突き当たった。「他社に比べ知名度や実績もなく、機種も少なく市場に対応できていなかった。これを機にSIMへの関心が社内外とも急速にしぼんでいった」(熊本一夫取締役統括部長)。数十人いた開発スタッフも一人減り、二人減りの状態が続く。SIMを商社などに売り込みを掛けるが、中々道は開かれない。「JRに売り込みを掛けても、私鉄の実績もない状態では門前払い同然だった」(同)と当時の苦労を語る。その苦労がやっと報われたのが1992年(平成4年)であった。東京の私鉄T社の試験用車両(1車両)に、SIMモータを搭載したブレーキシステムメーカーN社のコンプレッサが採用されたのだ。わずかに1台であり、しかも試験用車両ではあったが、後年の新幹線搭載につながる貴重なスタートの1台であった。
やっと兆しが見え始めたとはいえ、とても事業と呼べるものではなかった。すでに営業スタッフも激減し、熊本を含め計3名という有様であった。普通の会社ならとっくの昔に撤退していたであろう。しかし、わずか3人からの再出発が徐々にビジネスチャンスを広げていった。先のT社のテスト結果は良好なものであった。この結果を宝物のように商談に活用した。1995年(平成5年)、SIMモータが試験導入ではなく初めて実用車両に搭載された。その後、SIMモータの性能や信頼性が認められ始め、採用する鉄道会社も増えていった。
サタケのSIMモータ(T型) |
ついに2000年(平成12年)、私鉄での実績が認められ、スクリュー型コンプレッサに使用している単固定子のSIMモータが、JR東日本の電車に初めて採用された。開発スタートからおよそ15年が経過していたが、私鉄での実績からサタケのSIMモータに信頼が寄せられたのだ。
そして2011年3月、6年間にわたる耐久・性能試験を見事にクリアし、東北新幹線E5系の「はやぶさ」に搭載されて無事にデビューした。開発スタートから25年が経過していた「最初はモータのことを知らない連中ばかりだった。モータの構造も原理も作り方もほとんど知らなかった。その素人が専門家に教えを乞うたり、文献を紐解いたりしながら開発してきた。ウソのような本当の話だが、あの頃はがむしゃらに知識を吸収していった」(同)。同業他社からは素人集団に開発できるはずはないと蔑まれたこともあり、社内からもお荷物扱いを受けた時期もあった。しかし今では、サタケの5つの事業分野の1つとして立派に成長している。鉄道会社(電車)への採用実績は国内10社、海外6社、建物の防災設備への採用実績は全国1100物件を超えており、今後も採用増が期待されている。
「長年赤字を垂れ流してきた事業に、よくトップが辛抱してくれたと思う。サタケ精神の一つに『不可能はない』という項目があるが、開発初期から現在を振り返ると、それが当てはまったのかなあと思う」(同)。最後に、これからのモータ事業について、「世界的にもCO2削減への取り組みが行われており、電車への搭載も増えると考えている。今後、省エネ・高効率モータで世界に役立ち、サタケの幹、柱の事業に育てたい」(同)と意欲を見せる。
(※1)構造的にステータ(固定子)が二組あるモータで、「始動電流が低く、かつ始動トルク(回転力)が大きい」という特長を有する。
以上
(本件へのお問い合わせ: TEL 082-420-8501 広報室)
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