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2011.05.10
2011年5月10日
ユーザー紹介
雄大で豊かな自然に育まれた肥沃な大地、そして周囲を太平洋・日本海・オホーツク海に囲まれた、素晴らしい景観と豊かな食材の宝庫である北海道。この魅力ある北の大地で、大豆の生産拡大と品質向上に取り組み、2009年に豆類乾燥調製施設を新たに建設し、成果を上げている「苫前町農業協同組合(以下、「JA苫前町」)」を紹介する。
大規模な風力発電施設を擁する苫前町 |
【沃野と風の町】
苫前町は、北海道の北西部にある留萌管内の中央部に位置し、天塩山地を源とする中小の河川が日本海に注ぎ、山裾から海岸にかけては広大な沃野が広がっている。海岸線は「日本海オロロンライン」の愛称で呼ばれ、夕日の美しい景勝ルートとなっている。気候は、日本海を流れる対馬暖流の影響から内陸部より比較的温暖で、融雪は早いほうである。春は気温の上昇が早く、夏も気温が高めであるが、秋は多雨の傾向があり、冬の降雪量が多く11月末から4月上旬の約4ヵ月半が根雪期間である。平均気温は7.8度で、年間平均降雨量は約1,300ミリメートル。年間平均日照時間は約1,570時間で、降雪量は530センチメートルになる。また、海岸線においては年間平均風速が約4メートルあり、この風を利用した風力発電施設がオロロンラインのシンボルとなっており、その中でも苫前町は日本最大級の風力発電施設を擁している。
JA苫前町 代表理事組合長 松原幸博氏 |
【農産物への矜持】
JA苫前町(北海道苫前郡苫前町字古丹別27-1、代表理事組合長:松原幸博氏)は、1948年2月に設立された農協で、生産品としては米(8億円)、蔬菜(7.5億円)、酪農(7.1億円)、畑作(2.4億円)がある。耕地面積は約3,600ヘクタールで、そのうち水田が1,750ヘクタールである。米の約70%が「ななつぼし」で、タンパク値が低く甘み・ツヤがあり、苫前町の気候に合った食味の良い品種である。また、メロン、ミニトマト、かぼちゃ、とうもろこしが、米以外の重要4品目となっており、栽培に力を入れている。
経済部長 年代 博氏 |
「苫前町ではどの品目も道内の3%の収穫量があり、苫前町がないと100%にならない」と話すのは、代表理事組合長の松原幸博氏である。その言葉からは、収穫量だけでなく、高品質な農産物をしっかりと生産しているという矜持を感じ取ることができる。その証としてJA苫前町では、低コスト化を図るため共同利用施設・機械や法人組織を見据えた共同化を進め、担い手の農地への集約化を推進している。また、環境保全型農業を実践すべく、「北のクリーン農産物表示制度(YES!clean)」(※1)の認証を9品目11作型で受け、北海道でも有数の産地となっていることが挙げられる。さらに、実需者と特別栽培契約による特色のある生産への施策展開、農薬の飛散防止対策として飛散しやすいと言われている粉剤(DL剤も含む)の使用自粛や、近隣の酪農家から良質な堆肥の供給を受け健康な土壌づくりなどを実践している。
営農係長 前川 彰氏 |
【増える大豆生産】
JA苫前町では大豆の生産にも力を入れている。現在、国内シェアの約96%が輸入大豆で占められている中、「安全で安心な農作物」を求め、「遺伝子組み換え農作物」を求めない多くの消費者が存在する。国産大豆に対するニーズが高まる中、国の政策においても重要な作物として位置づけられている。 このJA苫前町の大豆生産について詳しく語ってくれたのが、同JA経済部長の年代 博氏と営農部営農係長の前川 彰氏である。近年、苫前町では農地の集積化が急激に進んだ結果、1戸当たりの経営面積も拡大を続けている。経営規模を拡大した農業者は土地利用型作物(水稲・大豆・小麦など)への作付け意欲が強く、大豆についても2006年に165ヘクタールであったものが、2011年には310ヘクタールになると予測されている。一方、この生産拡大により、既存の調製設備は処理能力を超え、さらに老朽化も進んだことから、豆類乾燥調製施設を新設する計画が2006年に持ち上がった。
新設した豆類乾燥調製施設 |
【新施設の建設】
既存の調製施設は、1997年にライスセンター内に設備されたもので専用施設ではなかった。また、大豆表面の汚れを除去し、品質を向上させるクリーナーの処理能力も毎時400キログラム程度のバッチ方式であったため、年々増加する大豆生産量に対応しきれなくなった。 そこで新たな施設の建設が浮上したわけだが、新設に当たっては、豆類も米や青果と同等に実需者に対する配慮が必要と考え、「1.トレース管理が構築できること(トレーサビリティの実施)」、「2.コンタミネーションの防止」、「3.商品化までが可能な調製能力」の3点をコンセプトとして取り組むことになった。
豆類汚粒クリーナー |
この新設計画が持ち上がった頃、JA苫前町はサタケのラック乾燥システムを知ることになった。1トンという小さな単位で乾燥でき、これを大豆に応用できないかと考えた。ラック方式だと、生産者同士の豆が混ざらない個人完結型が可能なので、トレース管理がやりやすく、また、ロスなく乾燥できるのも魅力であった。
ラック乾燥装置 |
最終的にJA苫前町は、既述の3つのコンセプトを満足させるため、サタケに施設設計の発注をしたが、これまでにないユニークな装置の存在も決め手の1つになった。それが「豆類汚粒クリーナー(BWS20A)」である。この装置は、サタケの無洗米製造装置「NTWP」において、糠分除去の目的で採用されたタピオカデンプンを利用して、豆表面の汚れを除去するサタケ独自の方式であった。ちょうど検討中の時期、サタケが道内の河西郡芽室町にこの装置のテスト機を持ち込み、実地試験を行っていた。前川氏は約2年間、装置の性能・信頼性の確認や大豆の現地持ち込みによる実機テストを繰り返した。これまで使用していた既存のクリーナーでは、大豆の表皮を傷つけ日持ちがしないことや、風味を損なうことがあったが、タピオカを使う方式は外観品質を低下させることなくクリーニング効果を発揮し、風味も損なわないことが確認された。さらに、最終的に導入された豆類汚粒クリーナーは毎時1.5トンという高い処理能力を有しているため、れまでのバッチ方式からライン方式になり、連続処理運転が可能になったのだ。
豆類乾燥調製施設の配置図 |
【生産者と実需者のパイプ役】
こうして、新たな豆類乾燥調製施設は2009年6月20日に着工、同年10月16日に完工した。本施設の利用者は、2009年に留萌管内3町1村の156名から、2010年には5町1村の195名に増加した。本施設が完成したことでトレース管理が構築され、生産現場と施設、施設と実需者との間の情報提供がスムーズなったことに加え、高い乾燥調製能力により、生産者も安心して豆類の生産ができるようになったという。大豆の1等比率も格段に向上し、本施設はその役割を十分果たしている。今後について前川氏は、「豆類乾燥調製施設で調製されたすべての大豆を契約栽培につなげることが目標。生産者と実需者との情報交換をするパイプ役を本施設が担うことで、お互いに安心しながら良い緊張感を持った生産が可能となる」と語る。
肥沃な土地、豊かな環境、そして風。苫前町を表す言葉である。しかしそれだけではない。郷土を愛し、農家と共に歩み、農産物に自信と誇りを持って消費者に届ける気概。JA苫前町はこれからも明日への歩みを続ける。
(※1)北海道クリーン農業推進協議会が推進する、北海道全体で取り組んできた「クリーン農業」を土台として、農薬や化学肥料の使用を削減して生産することを目的に道立農業試験場等により開発・改良された「クリーン農業技術」を導入して、技術導入前に比べて農薬や化学肥料の投入量を削減して生産された、よりクリーンな農産物について、その栽培方法などを分かり易く表示することにより、道産農産物の優れた点をアピールするもの。
(了)
■ 事業名 :平成20年度 強い農業づくり事業 豆類乾燥調製施設
■ 事業主体 :苫前町農業協同組合
■ 事業費 :4億9,980万円
■ 施設建設場所 :北海道苫前郡苫前町字古丹別137-1
■ 設計・施工管理:ホクレン農業協同組合連合会
■ 施工業者 :株式会社サタケ
■ 工 期 :着工 2009年6月20日、完工 同年10月16日
■ 敷地面積 :4,873.78m2
■ 建 坪 :1,068.35m2
■ 処理面積 :大豆 525ha、小豆195ha
■ 処理量 :大豆 1197.7t、小豆335.4t
■ 荷受日数 :大豆 82日、小豆23日
■ 日平均荷受量 :15t/日
以上
(本件へのお問い合わせ: TEL 082-420-8501 広報室)
※ニュースリリースの内容は発表時のものであり、最新の情報と異なる場合があります。あらかじめご了承ください。