No.22-004 / 2022年3月17日
「真吟精米特集(1)」―鈴木酒造店編
― 震災という試練を乗り越え力強く歩む ―
サタケ(本社:広島県東広島市西条西本町2-30、代表取締役社長:松本和久)は、2018年、米の磨き方で日本酒の酒質が変わる業界最先端技術「真吟精米」を開発しました。このたび「真吟精米」を導入している日本各地の酒蔵を訪問し、日本酒造りに対する思いや取り組みについてご紹介します。第1回の訪問先は福島県浪江町で復興を願い、力強く歩む株式会社鈴木酒造店(以下:鈴木酒造)です。
【東日本大震災という試練】
2011年3月11日。突如、地震・津波・原子力発電所事故の複合災害に見舞われた福島県双葉郡浪江町。かつて"日本で一番海に近い酒蔵"として海の酒を醸し続けてきた鈴木酒造(所在地:福島県双葉郡浪江町大字幾世橋字知命寺40)の蔵元・杜氏、鈴木大介氏(48歳)も、故郷を奪われたひとりである。震災当日は「甑(こしき)倒し」という酒造りの仕込み終了を祝う日だったが事態は一転。現実とは思えぬ忘れられない1日となった。当時のことを鈴木氏は「津波が自分たちの町を飲み込んでいったときの光景は、今でも鮮明に覚えています。原子力発電所の事故の影響で、警察の人たちはみんな白い防護服を着ているし、もう元の生活には戻れないんじゃないかって、不安でたまらなかったですね」と語る。
【酒造り再開の原動力】
蔵も母屋も津波に流され、がれきの山となった故郷を前に、なすすべもなく立ち尽くしていた鈴木氏を再度酒造りへと奮い立たせたもの。それは、地元の人々の「もう一度、浪江の酒を造ってほしい」という声だった。「正直、自分のことで精一杯だったんですが、みんな浪江のものにすがりたいって悲痛な面持ちで話しかけてくれるんですよね。すると次第に、酒を造ることで浪江の人たちを支えられるんじゃないかって思うようになりました。また、契約農家さんのご遺体に接したときに、亡くなった方の想いや震災での出来事、浪江町の歴史を伝えていかなければならないと思ったこと、四季醸造という長年の夢を諦められなかったことも原動力となりました」(鈴木氏)。避難先で出会った人たちの想いに応え、浪江町の文化を未来へと継承したいと考えた鈴木氏は、弟の荘司氏と共に奮起。後継者不足で酒造りを諦めていた山形県長井市の酒造会社(現:長井蔵)を引き継ぎ、同年11月より人生を賭けた挑戦が始まった。
東日本大震災による津波が町を襲い、原子力発電所事故の影響で、一時、全区画が帰還困難区域に設定された浪江町。あれから10年。海岸沿いには防潮堤が並び、かつて蔵や住宅が密集していた場所には空き地が目立つ。未だ復興の途上である。しかし、鈴木酒造の皆さんや浪江町で出会った人々は、皆前向きで、苦境を跳ね返す逞しさがあった。これから先、どんな未来が待っているかは誰にもわからない。自慢したくなるくらい嬉しいときもあれば、叫びたくなるほど辛いときもあるだろう。そんなときは、誰かの幸せを願って醸す鈴木氏の酒を手に取ってほしい。きっと、心の拠り所となるだろう。
※アミノ酸度の低い酒はすっきりとした味わいになりやすく、アミノ酸度の高い酒は芳醇でふくよかな味わいになりやすい。