2023.06.19
1993年、扁平精米に関する論文が初めて発表されました。通常、酒米はサッカーボールのように球形に削られますが、扁平精米はラグビーボールのように米と同じ形に、かつ薄く削ります。同じ精米歩合でも球形より雑味の元となるタンパク質が少なくなリ、よりスッキリとした繊細な酒を醸すことができるのです。しかし、扁平精米は技術的に難しく、精米時間もかなり必要とされるため、一部の酒蔵を除いては実用化(商用化)されませんでした。当社も扁平精米に挑戦しましたが、悉く失敗。いつしか扁平精米の名は社内から忘れ去られました。
ところが論文発表から25年、当社が扁平精米を可能にしました。しかも偶然の産物だったのです。扁平精米の記憶が消えた頃、従来機より少しでも効率よく砕米の少ない精米機を開発することになり、技術者は研究開発に勤しみました。結果は胸を張れるものではなく、再び暗礁に乗り上げました。その時、精米機開発に直接関与していない技術者が「精米ロールの材質を全く違うものにしたらどうか」と提案しました。ある意味、部外者からの提案だったので真摯に検討されることもなく採用は見送られました。おそらく「精米ロールは砥石製」であるという呪縛から離れられなかったのでしょう。
その後も、さまざまな実験が行われましたが、思うような成果が得られず時間だけが空しく過ぎ去っていきました。万策尽きたとは言わないまでも、仕方なく一旦は不採用となった精米ロールの材質を変更して実験しました。すると予期せぬ事態が起こったのです。「おい!これを見てみい!」と興奮気味に話す技術者が並べた米が「扁平」になっていたのです。予想したものとまったく違う結果が突然目の前に現れ、技術者は興奮しました。これが後の「真吟精米」につながる、cBN砥石を使った扁平精米出現の日だったのです。
その後、再度実験をして再現性を確かめ、精米精度を高める改良を何度も繰り返し、2018年、ついに新型醸造用精米機が誕生しました。まさに「瓢箪から駒」の出来事でした。当社は創業以来、画期的と呼んでいただける製品を数多く世に送り出しました。その多くは、過去の知識や経験則を超えたものでした。扁平精米も、常識外の発想や事象が画期的な発明につながる代表例となりました。
次回は、この「画期的な製品が売れない!」という事態に直面するお話です。乞うご期待!