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冷たくて、嬉しくて、冷や冷や?

2024.06.17

 

 世の中、ありとあらゆるモノがあふれ、新製品も次々と登場しています。運良くヒットすることもあれば、ほとんど売れないこともあり、メーカーはその結果に一喜一憂します。それでも今までにない「斬新なもの」「画期的なもの」を考え、市場が「必要とするもの」「求めるもの」を懸命に生み出す努力をします。それが日常生活を便利にしたり楽しいものに変えていき、経済発展にもつながります。当社も日々努力しているわけですが、時には思いが空回りしたり、実はニーズが思いの真逆にあったりすることもあります。その一例を筆者の経験から紹介します。

 それは1985年(昭和60年)前後のことでしたが、当時冷湿胚芽精米という精米法を研究していました。玄米を冷やすことで、胚芽好適米を使わなくても胚芽米ができるという技術です。胚芽好適米は、胚芽が取れにくいため胚芽米製造に向いていますが品種が限られます。一方、コシヒカリなどの一般米は品種も多く食味も良いのですが、脱芽しやすく胚芽米として売り出すことができません。そこで、冷えた玄米は胚芽が残りやすい(=精米しにくい)という特性を利用し、10℃以下に冷やした後に胚芽精米機で精米することにしました。

 筆者はある精米工場でその実証試験を行いました。冷却温度、湿度、精米機の流量・回転数・抵抗値・循環回数などの条件を変えながら最適条件を見つけ出す。その試験を約1か月間実施し、ついにコシヒカリで胚芽米の基準である「胚芽残存率85%以上」をクリアしました。しかも、通常の胚芽米より白度が格段に高く、一般精米並みの白さになりました。「お米が白くて、胚芽も残っている」という理想の胚芽米が誕生したのです。「今までにない素晴らしい胚芽米」という快挙に精米工場の方々からも喜びの声が上がり、翌週から市場での販売も決まりました。苦労の後は意気軒昂で、筆者の気分も最高潮に達しました。

ところが、売り出し開始から数日後、事態は急転直下。販売店から続々と苦情や返品が届きました。「ひょっとして胚芽が輸送中に取れたのか?」という不安にかられます。しかし、クレームの原因はまったく予想もできない意外なものでした。それは「米が白いのは胚芽米ではない」「いつも食べている胚芽米と違う」「黒い背筋が残っているコメの方がよい」というものだったのです。

 綺麗で胚芽もしっかり残っている画期的な胚芽米を作ったのに・・・、という思いは消費者が求めているものと乖離していたのです。胚芽米を食す方は健康に対する思いも強く、単に「綺麗」「おいしそう」「新しい」というものに重きを置いているのではない、ということをこの時強く認識しました。それ以来、新製品開発や広報活動において「作り手の勝手な思い込みはないか」「相手の立場に立って考えているか」「本当に欲しがっているものは何か」ということを真剣に考えるようになりました。

 「冷えた玄米」が教えてくれた、今では懐かしい冷や冷やした出来事でした。

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