実は「東北新幹線」や「六本木ヒルズ」にも

サタケは、「精米機をはじめとする食品産業総合機械メーカー」であるということは広く認知していただいておりますが、サタケのモーターは電車や高層ビルにも採用されているのです。一般的な汎用モータと比較して、小さい電流で大きな力を生み出す特長を持った双固定子電動機を開発し、特許を取得したことが普及へのスタートでした。東北新幹線に採用されたブレーキ用コンプレッサは、国内のブレーキシステムメーカーN社からJR東日本に納入されています。このコンプレッサに搭載されるモータとして、サタケの単相交流12kWモータが採用されています。

モータ開発の歩み

SIM-Gシリーズ SIM-Gシリーズ
六本木ヒルズの防災設備にもSIMが採用されています。 六本木ヒルズの防災設備にも
SIMが採用されています。

サタケのモータ開発は1985年(昭和60年)ごろに遡る。穀物機械の開発、販売が主力事業であるサタケがモータの開発に取り組んだのは、佐竹利彦社長(当時)のトップダウンによるものだった。当時、アジアを中心とした海外でのプラント建設(精米工場など)を順調に受注しており、プラントには数多くのモータが使用されたのだが、何台も運転すると発電機が止まるという問題が発生していた。インバータを使えば解決するのだが、当時はノイズなどの不具合が発生して機械に影響が出るおそれがあった。そこで、自社でモータを開発せよとの利彦の号令が掛かったのである。利彦の開発指示は問題解決ということが第一義的であったが、それとともに、父である初代社長佐竹利市が日本で最初の動力精米機を発明した時、併せてエンジン(石油発動機)を開発したことが伏線となっている。すなわち、父のエンジン(発動機)を開発したという偉業に対し、利彦はモータ(電動機)で成し遂げたいという思いがあったのだ。また、原動機の開発は、長きにわたる「精米のサタケ」という代名詞に支えられてきた、精米加工という技術的基盤と無縁ではない。

モータの開発がスタートし最初に取り組んだのが、インバータ不要で周波数制御が自由に行えるモータであった。インバータがないのでノイズの問題が解消されるのだ。しかしこのモータは途中で開発を断念した。熱の問題など解決が非常に困難な技術的課題が立ちはだかったからである。当時開発チームに在籍し、現在サタケのモータ販売事業を行っている佐竹電機株式会社(本社:広島県東広島市西条西本町2-30、代表取締役:佐竹利子)の熊本一夫取締役統括部長は次のように語る。「インバータ不要なモータは成功すれば画期的なものになることは分かっていたが、技術的・コスト的に簡単に乗り越えられるものではなかった。様々な解決策を講じたが、結果的に断念せざるを得なかった」。何とか世に出したい、成功させたいという強い思いは開発陣にあったが、方針転換を余儀なくされた。しかし、その後も地道な研究を重ね、「双固定子誘導電動機」(※1)や汎用モータを開発し、一定の成果を得た。モータの名称も「SIM(SATAKE Induction Motor)」と名づけ、希望の光が見えたかに思えた。

しかし、またしても壁に突き当たった。「他社に比べ知名度や実績もなく、機種も少なく市場に対応できていなかった。これを機にSIMへの関心が社内外とも急速にしぼんでいった」(熊本一夫取締役統括部長)。数十人いた開発スタッフも一人減り、二人減りの状態が続く。SIMを商社などに売り込みを掛けるが、中々道は開かれない。「JRに売り込みを掛けても、私鉄の実績もない状態では門前払い同然だった」(同)と当時の苦労を語る。その苦労がやっと報われたのが1992年(平成4年)であった。東京の私鉄T社の試験用車両(1車両)に、SIMモータを搭載したブレーキシステムメーカーN社のコンプレッサが採用されたのだ。わずかに1台であり、しかも試験用車両ではあったが、後年の新幹線搭載につながる貴重なスタートの1台であった。

やっと兆しが見え始めたとはいえ、とても事業と呼べるものではなかった。すでに営業スタッフも激減し、熊本を含め計3名という有様であった。普通の会社ならとっくの昔に撤退していたであろう。しかし、わずか3人からの再出発が徐々にビジネスチャンスを広げていった。先のT社のテスト結果は良好なものであった。この結果を宝物のように商談に活用した。1995年(平成5年)、SIMモータが試験導入ではなく初めて実用車両に搭載された。その後、SIMモータの性能や信頼性が認められ始め、採用する鉄道会社も増えていった。

サタケのSIMモータ(T型)

ついに2000年(平成12年)、私鉄での実績が認められ、スクリュー型コンプレッサに使用している単固定子のSIMモータが、JR東日本の電車に初めて採用された。開発スタートからおよそ15年が経過していたが、私鉄での実績からサタケのSIMモータに信頼が寄せられたのだ。

そして2011年3月、6年間にわたる耐久・性能試験を見事にクリアし、東北新幹線E5系の「はやぶさ」に搭載されて無事にデビューした。開発スタートから25年が経過していた。「最初はモータのことを知らない連中ばかりだった。モータの構造も原理も作り方もほとんど知らなかった。その素人が専門家に教えを乞うたり、文献を紐解いたりしながら開発してきた。ウソのような本当の話だが、あの頃はがむしゃらに知識を吸収していった」(同)。同業他社からは素人集団に開発できるはずはないと蔑まれたこともあり、社内からもお荷物扱いを受けた時期もあった。しかし今では、サタケの5つの事業分野の1つとして立派に成長している。鉄道会社(電車)への採用実績は国内10社、海外6社、建物の防災設備への採用実績は全国1100物件を超えており、今後も採用増が期待されている。

「長年赤字を垂れ流してきた事業に、よくトップが辛抱してくれたと思う。サタケ精神の一つに『不可能はない』という項目があるが、開発初期から現在を振り返ると、それが当てはまったのかなあと思う」(同)。最後に、これからのモータ事業について、「世界的にもCO2削減への取り組みが行われており、電車への搭載も増えると考えている。今後、省エネ・高効率モータで世界に役立ち、サタケの幹、柱の事業に育てたい」(同)と意欲を見せる。

(※1)構造的にステータ(固定子)が二組あるモータで、「始動電流が低く、かつ始動トルク(回転力)が大きい」という特長を有する。